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第二話 孔雀と鸚鵡(オウム)

last update Tanggal publikasi: 2026-05-28 12:25:42

「……男(姫君の幼馴染みの青年)、花を見給みたまいて……」

「この花を姫君に届けさせたのね!」

 二の姫が、はしゃぐ。

「届けさせようとしただけですよ。受け取ったのは女(邪魔をしている姫)です」

 キヨが言った。

 まぁ言わなくてもお分かりでしょうけど――。

 姫君に花を届けさせようとしたけど何故か女が受け取ってしまった、というのは実際にあった話なのだ。

 といっても「幼馴染みの姫君に届けさせようとした」の部分は噂話。

 吉野に咲く桜を見ていたく感動された春宮は幼馴染みの姫君にも見せたいとお思いになり、一本の木の枝を全て切って姫君に届けるようにとお命じになった。

 ところが何故かその大量の枝は幼馴染みの姫君ではなく左大臣家に届いた――と言われている。

 左大臣家に桜の枝が届いたという部分以外は噂話なのだけど――。

 噂話を信じるのは軽率?

 根拠はないんだし――。

 ――と、思うでしょ?

 ところが大量の桜の枝が左大臣家に届いたのは本当の話なのだ。

 もちろん私は見てないけど左大臣家には沢山の使用人がいたから突然届いた山のような桜の枝を見た人は大勢いる。

 というか使用人で見なかった者は一人もいない(という話だ)し、吉野から次々と列をなして運ばれてくる荷車に積まれた桜の枝は近所の人達どころか道を行き交っていた人達も見たらしい。

 だから当時、都ではすごい噂になった――と言われている。

 ついでにいうと――。

 桜は枝を切ると枯れてしまうと言われている。

 そして吉野には枝を全部切られて枯れた桜の大木がある。

 実は『今上帝が春宮だったころ枝を切らせて枯れた桜の木』は吉野でちょっとした名物になっているそうだ。

 まぁ桜じゃなくても枝を一本残らず切られたら大抵の木は枯れると思うけど……。

 いやいや、元々左大臣の姫の方に贈ったんでしょ、と主張する人も勿論もちろんいる。

 でも春宮と左大臣の姫は幼馴染みではない――けど大事なのはそこではない。

 鸚鵡オウムなんて鳥が唐土もろこしにいる、なんて話を知っている人は少ない。

 天皇家の歴史をつづった歴史書には名前が出てくるらしい(大昔に唐土もろこしから贈られてきたものの中にその鳥が出てくる)から知ってる人はいるだろう。男手おとこで(漢字)だけで書かれた(要は漢文の)歴史書を読めるなら。

 けど、そんな珍しい鳥をかたどった香炉?(色までおんなじ!)

 誰も聞いたことがないような鳥の名前を出しても珍しい材料か細工の事だと思われてしまうだろう――私がそう考えてしまったように。

 あえて、そんな名前の鳥の形をした香炉なんて持ち出すはずがない――見たことがあるのでなければ。

 つまり中宮の身近にいて香炉がなんの鳥の形で何色なのか知っている誰かが昔、実際に見聞きしたことを書いているに違いない!

 皆そう思っているから競うようにして物語を読んでいるのだ。

 正直、継子いじめ譚は他にいくらでもあるから継子いじめの部分はどうでもいい。

 読みたいのは左大臣家の暴露話ばくろばなしだ(それと姫君失踪の噂の真相)。

「女(邪魔をしている姫君)にけい……言い給いて……」

 キヨが慌てて言い換えたのを聞いて思わずにやりとしてしまう。

 それを隠すために扇で口元を隠した。

 敬語は数あれど(覚えるのが大変でうんざり!)『申し上げる』が『けいす』になるのは中宮と春宮だけなのだ。

 当然だが春宮は男性だから〝女〟とは書かない。

 大納言の姫に仮託しているとはいえ中宮様に対して申し上げたことを『申し給う』と書くのは恐れ多くてつい『啓し給う』と書いてしまったのだろう。

『啓す』と書いてあったなら間違いない。

〝女(邪魔をしている姫君)〟は中宮なのだ。

 今、書かれている最中の物語なのだから作者は生きている。

 つまり〝女〟も存命中の中宮か皇后なのだ。

「……姫君はツユに『お前がお義母かあ様にいじめられるわ。私のことは気にしないで行きなさい』と言いました」

 キヨが本を読む。

「姫君はなんてけなげなの!」

 二の姫がそう言うと、

「本当ですよ! なんて思いやりのある優しい姫君でしょう!」

 とキヨが読むのを中断して妹に同意した。

「続き、早く」

 もう一人の妹、三の姫が催促する。

「あ、申し訳ありません……ツユが行ってしまい、一人ぼっちになると姫君は涙を流し……」

「可哀想!」

 三の姫が声を上げる。

 二の姫も同意だというように、こくこくと頷いている。

 そこで話が終わり、キヨは別の本を手に取って読み始めた。

「女、同胞はらからの君に言い給いて……」

 えっ……!?

 キヨの言葉にハッとした。

····?〟

 同胞はらからというのは兄弟姉妹きょうだいという意味である。

 普通は同腹(母親が同じ)の兄弟姉妹きょうだいをさすが――。

 今、ここに登場してるのはきみ(主人公の姫君)と女(邪魔をしている姫君)だけだ。

 ということは女と姫君は腹違いの姉妹?

 どこかで姫君のことを『中の君』と書いていた気がしたから主人公が次女なのは間違いないだろう。

 なら生死はともかく姉はいることになる。

 だから女が姫君の姉でもおかしくはない。

〝女〟は北の方が産んだ長女(大君)で、姫君は他の妻が産んだ子供で、その妻が亡くなったから父親が引き取った、なら辻褄つじつまは合う。

 一応、異母兄弟を同胞はらからと書いている物語は他にもあるし。

 というか、これなら色々とおかしいと思っていた疑問が解消する。

 例えば女(邪魔をしている姫君)が姫君(主人公)に嫌がらせをしていたという部分。

 普通、殿方から懸想文けそうぶみ(恋文)をもらって初めて恋愛が始まるのだ。

 見ず知らずの男性に姫君が片想いするというのが考えづらい――知り合いようがないからだ。

 そして邸どころか部屋から出ることすらまれな姫君(大君)が、片想いの相手(青年)がどこかで女性(主人公の姫君)と親しくなったなんて一体どうやって知るのか。

 そういう疑問も同居している姉妹なら解消される。

 そして、もし『男(姫君の想い人)』が春宮なら、春宮妃になりたい大君やその母親である北の方にすれば春宮と親しい姫君は邪魔なはずだ。

 姉と妹、両方妃にするという事もあるのだが(そう言う例はある)、例えば父親が姫君と相思相愛の相手が春宮だと知ったら大君には他の男を婿に迎えることにして入内は姫君だけにするかもしれない(入内もタダではないのだ)。

 北の方や大君からすれば、それだけはなんとしてでも阻止したいと思うだろう。

 だから散々邪魔していた、というのは十分考えられる。

 実際、春宮に入内したのは左大臣の大君だけで主人公の姫君は行方不明になっているのだし。

「あの、これ明後日までに返さないといけないので……」

 切りの良いところでキヨが言った。

「じゃあ、早く書き写さないと!」

「紙を持ってきて! ありったけ!」

 妹達が慌てて乳母達に命じた。

 目を覚ますと左大臣の大君おおいぎみに戻っていた。

 ということは牛車にかれて死んだのは夢ではなかったのだ。

 あの物語はまだ途中だったから続きが読めないのが心残りで記憶が戻ったのだろうか?

 左大臣の大君が入内して中宮になるという結末は知っているが、問題はあの姫君がどうして失踪したのか、である。

 皆、あの姫君が行方不明になったと言う事は知っていても、どうしてそんなことになったのかは誰も知らない。

 正直、物語の他の部分――継母や左大臣の大君がやった嫌がらせ――はどうでもいいから、あの主人公の姫君に何があって行方不明になったのかだけ知りたい。

 まぁ幸か不幸か今の私は左大臣の大君だ。

 金持ちだし、左大臣に取り入りたい公達が色々な贈り物をしてくる。

 そして父は娘――もちろん私――を甘やかしてくれて欲しい物はなんでも手に入れてくれる。

 つまりとっくに書かれた物語を手に入れるのは容易たやすい。

 と言いたいところだけど――。

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