로그인「……男(姫君の幼馴染みの青年)、花を
「届けさせようとしただけですよ。受け取ったのは女(邪魔をしている姫)です」
キヨが言った。まぁ言わなくてもお分かりでしょうけど――。
姫君に花を届けさせようとしたけど何故か女が受け取ってしまった、というのは実際にあった話なのだ。
といっても「幼馴染みの姫君に届けさせようとした」の部分は噂話。吉野に咲く桜を見ていたく感動された春宮は幼馴染みの姫君にも見せたいとお思いになり、一本の木の枝を全て切って姫君に届けるようにとお命じになった。
ところが何故かその大量の枝は幼馴染みの姫君ではなく左大臣家に届いた――と言われている。
左大臣家に桜の枝が届いたという部分以外は噂話なのだけど――。
噂話を信じるのは軽率?
根拠はないんだし――。――と、思うでしょ?
ところが大量の桜の枝が左大臣家に届いたのは本当の話なのだ。
もちろん私は見てないけど左大臣家には沢山の使用人がいたから突然届いた山のような桜の枝を見た人は大勢いる。というか使用人で見なかった者は一人もいない(という話だ)し、吉野から次々と列をなして運ばれてくる荷車に積まれた桜の枝は近所の人達どころか道を行き交っていた人達も見たらしい。
だから当時、都ではすごい噂になった――と言われている。
ついでにいうと――。桜は枝を切ると枯れてしまうと言われている。
そして吉野には枝を全部切られて枯れた桜の大木がある。実は『今上帝が春宮だったころ枝を切らせて枯れた桜の木』は吉野でちょっとした名物になっているそうだ。
まぁ桜じゃなくても枝を一本残らず切られたら大抵の木は枯れると思うけど……。
いやいや、元々左大臣の姫の方に贈ったんでしょ、と主張する人も
天皇家の歴史を
けど、そんな珍しい鳥を
誰も聞いたことがないような鳥の名前を出しても珍しい材料か細工の事だと思われてしまうだろう――私がそう考えてしまったように。
あえて、そんな名前の鳥の形をした香炉なんて持ち出すはずがない――見たことがあるのでなければ。
つまり中宮の身近にいて香炉がなんの鳥の形で何色なのか知っている誰かが昔、実際に見聞きしたことを書いているに違いない!
皆そう思っているから競うようにして物語を読んでいるのだ。
正直、継子いじめ譚は他にいくらでもあるから継子いじめの部分はどうでもいい。 読みたいのは左大臣家の
「女(邪魔をしている姫君)に
敬語は数あれど(覚えるのが大変でうんざり!)『申し上げる』が『
大納言の姫に仮託しているとはいえ中宮様に対して申し上げたことを『申し給う』と書くのは恐れ多くてつい『啓し給う』と書いてしまったのだろう。
『啓す』と書いてあったなら間違いない。
〝女(邪魔をしている姫君)〟は中宮なのだ。今、書かれている最中の物語なのだから作者は生きている。
つまり〝女〟も存命中の中宮か皇后なのだ。「……姫君はツユに『お前がお
「姫君はなんてけなげなの!」
二の姫がそう言うと、 「本当ですよ! なんて思いやりのある優しい姫君でしょう!」 とキヨが読むのを中断して妹に同意した。「続き、早く」
もう一人の妹、三の姫が催促する。「あ、申し訳ありません……ツユが行ってしまい、一人ぼっちになると姫君は涙を流し……」
「可哀想!」 三の姫が声を上げる。 二の姫も同意だというように、こくこくと頷いている。そこで話が終わり、キヨは別の本を手に取って読み始めた。
「女、
えっ……!?
キヨの言葉にハッとした。
〝
今、ここに登場してるのは
ということは女と姫君は腹違いの姉妹?
どこかで姫君のことを『中の君』と書いていた気がしたから主人公が次女なのは間違いないだろう。
なら生死はともかく姉はいることになる。 だから女が姫君の姉でもおかしくはない。〝女〟は北の方が産んだ長女(大君)で、姫君は他の妻が産んだ子供で、その妻が亡くなったから父親が引き取った、なら
というか、これなら色々とおかしいと思っていた疑問が解消する。
例えば女(邪魔をしている姫君)が姫君(主人公)に嫌がらせをしていたという部分。
普通、殿方から
そして邸どころか部屋から出ることすら
そういう疑問も同居している姉妹なら解消される。
そして、もし『男(姫君の想い人)』が春宮なら、春宮妃になりたい大君やその母親である北の方にすれば春宮と親しい姫君は邪魔なはずだ。
姉と妹、両方妃にするという事もあるのだが(そう言う例はある)、例えば父親が姫君と相思相愛の相手が春宮だと知ったら大君には他の男を婿に迎えることにして入内は姫君だけにするかもしれない(入内もタダではないのだ)。
北の方や大君からすれば、それだけはなんとしてでも阻止したいと思うだろう。
だから散々邪魔していた、というのは十分考えられる。実際、春宮に入内したのは左大臣の大君だけで主人公の姫君は行方不明になっているのだし。
「あの、これ明後日までに返さないといけないので……」
切りの良いところでキヨが言った。「じゃあ、早く書き写さないと!」
「紙を持ってきて! ありったけ!」 妹達が慌てて乳母達に命じた。 目を覚ますと左大臣の
ということは牛車に
左大臣の大君が入内して中宮になるという結末は知っているが、問題はあの姫君がどうして失踪したのか、である。
皆、あの姫君が行方不明になったと言う事は知っていても、どうしてそんなことになったのかは誰も知らない。
正直、物語の他の部分――継母や左大臣の大君がやった嫌がらせ――はどうでもいいから、あの主人公の姫君に何があって行方不明になったのかだけ知りたい。
まぁ幸か不幸か今の私は左大臣の大君だ。
金持ちだし、左大臣に取り入りたい公達が色々な贈り物をしてくる。
そして父は娘――もちろん私――を甘やかしてくれて欲しい物はなんでも手に入れてくれる。 つまりとっくに書かれた物語を手に入れるのは
と言いたいところだけど――。
敬称略 順不同鏡山昭典『私撰 枕ことば辞典』阿部萬蔵・阿部猛『改訂版 枕詞辞典』八條忠基『詳解 有識装束の世界』倉本一宏『平安京の下級官人』和田英松『官職要解』榎村寛之『斎宮-伊勢斎王たちの生きた古代史』承香院『あたらしい平安文化の教科書』繁田信一『平安朝の事件簿 王朝びとの殺人・強盗・汚職』こさかべ陽子『よく分かる平安時代』『平安時代の絵事典』『光る君へ』ついに最終回…時代考証が語る平安貴族の「政治」と「恋愛」<上>https://www.yomiuri.co.jp/column/japanesehistory/20241209-OYT8T50192/『光る君へ』ついに最終回…時代考証が語る平安貴族の「政治」と「恋愛」<下>https://www.yomiuri.co.jp/column/japanesehistory/20241209-OYT8T50194/望月光『望月光の古文教室 古典文法』荻野文子『マドンナ古文 パーフェクト版』『落窪物語』『平中物語』『御堂関白記』『小右記』『堤中納言物語』『日本書紀』『古事記』『古今和歌集』『山槐記』『源三位頼政集』小松英雄『伊勢物語の表現を掘り起こす』望月光『望月光の古文教室 古文読解編』荻野文子『マドンナ古文常識217』荻野文子『マドンナ古文和歌の修辞法』岡本梨奈『岡本梨奈の1冊読むだけで古文の読み方&解き方が面白いほど身につく本』木下武司/亀田龍吉『万葉集 植物さんぽ図鑑』成清弘和『律令家族法の研究』『令義解』『律令制と古代社会』河添房江『紫式部と王朝文化のモノを読み解く 唐物と源氏物語』八條忠基『有職故実から学ぶ年中行事百科』梶川敏夫『ビジュアル再現 平安京 地中に息づく都の栄華』梶川敏夫『新版よみがえる古代京都の風景
〝橘の よりちかき香は ならのはの はねのはやしは 深紫と〟 歌の下の句で「はねのはやしは 深紫と」と言ったのは、初句の『橘の』は近衛と言う意味ではない(『右近衛府』を『右近の橘』ということがあるため)だと思っていた。『ならのはの』は枕詞なので意味はありませんのよ。『羽林』は近衛府の大将から少将までを指す言葉で官位は従三位から正五位下で色は深紫、自分は六位(色は深緑)だから羽林ではない。 それでも敢えて羽林と言う言葉を使ったのは『橘』は『近衛』と言う意味ではなく名字だ、という意味だと解釈していたのだけれど――。 考えすぎだったのかしら……。 私は首を傾げた。 もしかして思っていたより歌が得意ではないとか?「それに六位って……太政大臣の跡継ぎなら蔭位は従五位下のはずよ」 六位なのは深緑の位襖を着ているのだから間違いないはずだ(官位によって着ていい色が決まっているんですのよ)。 自分より下の位階の色を着るのは構わないから(上の官位の色は勅許がない限り禁止)、深緑が好きとかそういう理由で実際は五位だけど六位の位襖を着ていたとか? そんなことありますの?「私が引き取られてしばらくしてから北の方が息子を産んだので」 ああ……。 それも良くある話だ。 正妻に跡継ぎが産まれないからと他の妻が産んだ息子を後継者にしたら嫡男が産まれる。 昔の帝ですらそれで揉めて一度は皇統が分かれてしまったくらいだ。 一位の庶子なら蔭位は正六位上である。「だから橘を名乗っているのです」 「お母様が橘だったってこと?」 お祖父様(お母様のお父様)の政敵になるほどの大貴族(元)に『橘』なんていたかしら? 私は首を傾げた。「いえ、母や妹が住んでいたのは橘の里として有名なところだったので」 「
私(左大臣の元大君の方)が首を傾げていると――。「〝みや〟は私の父親違いの妹です」 頼浮が言った。「……つまり、私はお母様の不義の子で、あなたはお兄様ってこと?」 私が訊ねる。 お母様がお父様を婿にする前に他の殿方を夫にしていた時期があって、その時に頼浮を産んだのでないのならそういう事になる。 だとすると――。 せっかく入内しなくて良くなったのに……。 帰る家を失った上に頼浮と異父兄妹なんて……。 これでは結局結ばれることが出来ないのは同じだ。 なんてことですの……。 では、通ってきて婿になる気はなかったと言う事ですのね。 それとも左大臣の姫なら兄妹と言うことを隠して婿になってもいいと思っていたとか? そして今は左大臣の姫ではなくなってしまったから明かしたということ? 帰る家を失った上に散々ですわ……。 私は肩を落とした。 とはいえ妻というのは基本的に夫の出世の手伝い(と跡継ぎ)のためにいるのだから左大臣の娘ではないどころか貴族ですらなくなり財産もない今の私では相手にしてくれる殿方などいるはずないのだ。 夫に養ってもらう妻もいるが、それは男性が出世して財産も出来てからの話である。「北の方ではない妻が産んだ姫――中の君です。左大臣の中の君の名は美也というのです」 「私と同じ名前でしたの!? お父様ったら!」 いくらなんでもいい加減すぎますわ! 感傷に浸っていましたのに、ぶち壊しではありませんか!「母は私の父に捨てられて苦しい生活を送っていたのです。それで左大臣が一時期、母を援助して下さっていました。美也はその時に出来た娘です」 援助と言いつつすることはしてたって事なのね……。 とはいえ、そもそも面倒を見るというのは妻にするという事なのだが。 親が娘に大して財産を残さなかった場合、女性は夫に捨てられたらすぐに生活
「この子をお願いします」 そう言って私(左大臣の大君の方)に猫を渡すと中の君が牛車から降りた。 中の君は私が初めて会った日にあげた孔雀の羽を持っている。 皆が見ている前で大君として出ていったのだからもう引き返せない。 牛車の中に残った私も――。 * お父様は中の君がこれ以上狙われることのないように死んだことにした。 遺体があると死穢に触れてしまうからという理由で重症だった中の君を人の訪れがない寺に運び込んだ。 我が子と言えど死穢は死穢だから触れないために見ないようにするというのは珍しくない。 特に左大臣ともなると公式行事の予定が詰まっているし、他の者と違って簡単に欠席することも出来ないのだから尚更だ。 中の君はその寺で介抱を受けて助かった。 お父様は最初、中の君を狙っている者を捕まえたら生きていたと明かして左大臣家に連れ戻すつもりだった。 しかし犯人は叔父様で、私や三の姫、四の君を巻き添えにしてまで中の君を亡き者にしようとしたと判明した。 しかも叔父様がそんなことをした理由を考えたら中の君が生きていると知られるとまた狙われるかもしれない。 今回は叔父様ただ一人でやったこととされた。 そして、叔父様は遠流(遠い土地への流罪ですわ)になった。 だが叔母様やお母様が同じことをしないという保証は?――もちろん、ない。 次に中の君が狙われたら再び私や妹達が巻き込まれるかもしれない。 そのときは巻き添えになった私達も助からないかもしれないと考えたお父様は中の君を死んだままにしておくことにした。 こうなったら中の君を別の娘ということにして知り合いの貴族に養女にしてもらうしかない、そう考えた時、今度は春宮が出家すると言い出した。 お父様が春宮に啓す(申し上げるって意味ですわよ)と言ったのはこのことである(私は中の君のことをお父様から聞いて知っていましたのよ)。 私はそれを止めたのだ。 春宮に中の君が生きていると
数日後―― 私(左大臣の大君の方)は松姫から頂いた物語を全て読み終えた。 やはり桜の枝を全部切ったとは書いてなかった。 そもそも〝女〟が出てくる前に桜を贈ったのは別れるときの一枝だけで、再会後は贈っていない。 思い込みだったのだ。 読む前に吉野の枯れた桜の話を聞いていたから。 そして縫い物。 物語の姫君は縫い物が上手かった。 だから継母は姫君に大量の縫い物を押し付けたのだ。 けれど中の君はお世辞にも上手いとは言えなかった。 お母様が中の君に縫い物をさせていたのは中の君が下……あまり得意ではなかったからだ。 左大臣家の娘として婿を取ることになるのなら縫い物が上手くなければならないから。 箏の演奏も同様で、物語の主人公は名手で妹に手ほどきしていた。 ついでにいうと物語の主人公は〝中の君〟ではなかった。 というか〝中の君〟と書いてあるところは無かった――松姫の書いた物語には。 それも私の勘違いだった。〝同胞〟と書いてあったのが〝女〟と一緒に出てきた場面だから当然なのだが。 松姫の物語には〝女(意地悪をしていた姫君)〟は全く出てこなかった。 そして孔雀や鸚鵡の香炉は〝女〟と一緒に出てきたのだから当然、松姫が書いた物語には出てきていない。〝女〟が出てきてからの話は松姫以外の誰かが書いたのだろう。 時々あるのだ。 物語の先を読みたいと思った別の誰かが勝手に続きを書いてしまうことが。 あるいは、そもそも続きではなく別の話が混同されたのかもしれない。 継子いじめ譚は人気があるから多くの人が書いていた。 どちらにしろ、松姫の物語は私や中の君の話ではなかったのは間違いない。 疑問は解けましたけど……。 いなくなった人達は戻ってこない。 もう取り返しが付かないのだ。 私は深い溜
私(左大臣の大君の方)が目を覚ますと、また陰陽師と僧侶達の祈祷や読経の声が聞こえていた。「姫様……」 トメが声を詰まらせる。「今回は痘瘡じゃないわよね?」 そう言った私の声は驚くほど掠れていた。「召し上がったものの中に毒が……」「あなた達は大丈夫だったの!?」 飛び起きたかったが身体が動かなかった。 夢で見た物語の毒は今回のこと!?「姫様方だけが召し上がられたので……」 ならお菓子だろう。 珍しくて数が手に入らないお菓子は主人しか食べない。「妹達は!? 無事なの!?」 物語で儚くなったのは末の妹だったはず。 左大臣家なら四の姫だ。「三の姫様も四の姫様もお元気です」「元気?」 まだ子供で身体が小さいのに?「三の姫様と四の姫様は召し上がられませんでしたので」 小さい子供がお菓子を食べなかった……?「ご親戚の方が姫様方にとお菓子を贈って下さったんです。ただお客様がいらしたので数が足りなくて……姫様と中の君だけが……」 三の姫も食べなかったのなら贈られたのは娘の人数分だけだったのだろう。 だとすれば私達を狙ったと言うことだが――。 私達を親戚が狙った? 一体なんの理由があって? 数日後―― 陰陽師や僧侶の声が止まった。 中の君は助からなかった。 私達は沈痛な面持ちで墨染めの衣裳を着て俯いていた(喪に服す時に墨染めの色を纏った)。 三の姫や四の姫、女房達は泣いていた。「姫様、申し訳ありません!」 女房の一人が泣きながら謝った。「あなたが毒を入れ
「お母様、これ、中の君宛ではありませんの?」 私はお母様に文を差し出して見せた。「何故そんな事があなたに分かるのですか」「えっ……そ、それは……」 思わず返事に詰まる。 まさか夜中に春宮と中の君が狐の鳴き真似をしていたと答えるわけにはいかないし……。「わ、私宛なのですか? 心当たりがなかったので、てっきり……」 春宮に入内することになっている私には文が届いたとしても渡してもらえな
明日の晩は三の姫と四の姫を私の部屋で寝かせるように乳母達に言い付けておきましょう。 中の君にも一応忠告しておいた方がいいかしら? 私は迷った。 中の君はもう子供ではないから春宮が幼い子供にしか興味がないなら大丈夫だと思うけど……。 春宮を慕っている様子だし「春宮は子供が好き(悪い意味で)」なんて言ったら中の君は気を悪くするだろうし、信じてくれないだろう。 信じてくれたら信じてくれたで美しい思い出を壊してしまうわけだし――。「宴?」 中の君が聞き返した。「ええ、殿方がたくさん来るでしょ。中には不心得者もいるし。だから、よければ私の部屋に……」 春宮では
「とてもお優しくしていただきました」 中の君が懐かしそうな表情で言った。 優しかった理由が子供だったからではないといいのだけれど……。「姫様」 トメの声で我に返った。 私が身振りで中の君に渡すように指示する。 トメが中の君に孔雀の羽を差し出した。「見事と言うほどではないけど……」「いいえ! とてもきれいです! ありがとうございます!」 中の君が嬉しそうな表情で受け取る。「春宮様から孔雀の話をうかがって以来、ずっと見てみたいと思っていたんです」 ああ、なるほど……。 内裏には孔雀がいるから……。 だとしたら猫を飼っていた幼馴染みというのも春宮だろう。 帝は猫
「春宮様、あちらへお逃げ下さい」 目の前の人が言った。 若い男性の声だ。「分かった」 春宮が逃げていったのと入れ違いに複数の足音が近付いてきた。 警護の者達に私の声が届いてしまったらしい。 私が急いで二の姫の寝所に入ると男性は妻戸に立って中が見えないようにしてくれた。「何があった!」 駆け付けてきた随身(警護の者)達に、 「春宮様はあちらへ行かれた」 若い男性が答える。 随身達は春宮が逃げた方向へ足早に向かった。「二の姫、大丈夫?」 私の問いに二の姫が震えながら頷く。「もう大丈夫だから寝なさい」 私がそう言うと二の姫は素直に横になっ







